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SINGERS GUILDって何?

SINGERS GUILD待望の 洋楽ライン 第二弾アーティストとして、極上のバラード "Not The One" を届けてくれたシンガー・作曲家・プロデューサーの Andreas Stone (アンドレアス・ストーン) さんが来日、インタビューを行いました。
自国スウェーデンでの活躍はもちろん、J-POPアーティストにも多くの曲を提供している Andreas さん。シンガー、そして楽曲制作について、興味深いお話を聞かせていただきました。


■ では、先月リリースされた "Not The One" についてご説明いただけますでしょうか?

全体としては典型的なアメリカン・カントリー、いわゆる「ナッシュヴィル系」のバラードって感じだけど、とてもメロディアスな曲に仕上がったと思う。Aメロはメロディがきれいだから特に気にいってるよ。いわゆるアメリカのトラッド系サウンドって、曲の構成や歌い方もストーリーを紡いでいくようなスタイルになっていて、普通の洋楽じゃ短くなりがちのAメロも、この手のサウンドではしっかり長めに作られる傾向にある。そう考えると、ナッシュヴィルの曲と日本の曲とは共通項がたくさんあるのかもしれないね。

でも、この曲のサビは、ちょっとナッシュヴィル系にしては風変わりで、実はすごく「怒り」を表現した内容になっているんだ。これは、僕自身、あまり書いたことがない感じのサビで、シンプルな繰り返しで構成されつつ、音符の動きも少なめ。曲全体としてはメロディが主体な曲なんだけどね。だから、この曲は、「優しさ」と「アグレッシブさ」が共存した作品と言えるんじゃないかな。

(※ナッシュヴィル…アメリカ・テネシー州の首都で、カントリーミュージックの中心都市。「The Music City」とも呼ばれ音楽産業が盛ん)




■興味深いお話ありがとうございます。ところで、"Not The One"が収録されているアルバム "Inside Out"のほかの収録曲も聞かせていただいたのですが、どれもメロディーラインが美しくて、いい意味で時代を感じさせない曲ばかりでした。ですが、これまでAndreasさんが作家としてJ-POPアーティストに提供した曲は、エッジが利いていて今っぽい印象の曲が多かったのでちょっと意外でした。この違いというのはどこから来ているんでしょうか?ご自身の曲ではスタイリッシュで洗練された曲をやっているのに、アーティスト向けに書いた曲はアグレッシブな曲になる、その違いと共通点とを教えてほしいです。

作曲家としての自分については、そんなに語ることはないんだよね。とにかく音楽が好きで、どんなタイプの音楽でも好きだということだけかな。いろんなスタイルの曲にもチャレンジしたいと思ってるし、例えどんなジャンルであっても、自分をコントロールして作曲したいと思ってる。

でも、アーティストとしての自分は、とにかく純粋な気持ちとシンプルな発想、それに手作り感というものを大切にしながら、自分のルーツに立ち返った音楽を発表したいと考えているんだ。僕のルーツは、良いメロディであり、生楽器をフィーチャーしたもの。その感覚は、作曲家の自分とはまったくの別物だし、同じ人間であっても、随分と異なってるんじゃないかな。アーティストとしては、琴線に触れるような感動的なメロディを書き続けたいけど、作曲家としては皆をもっと驚かせたいという気持ちもあって(笑)。だから、もっと過激にやりたいし、実際のところ『何でもあり』って感じかもね。


■ 今回は作家としてコライト(※楽曲の共同制作)で来日中で、これまでも何度か来日して日本の音楽業界の人々と仕事をされてます。その中で、日本の音楽について面白いな、特徴的だなと思うことは?

日本で仕事するのは大好きだよ。みんなマナーが良くて礼儀正しいし、仕事ぶりがプロフェッショナルで、全てがうまくワークするようになっているところも好き。全員が忙しそうだけど、それでも楽しみながら仕事している感じはイイよね。あと「必ず最後までしっかり仕上げる」というのは、まさに日本ならではの感覚じゃないかな。楽曲が締め切り通りにきちんと納品されていく様は、全てが上手く機能してる巨大マシンを見てるような気分がするね。

あと、日本はとてもアーティスティックな国だと思うな。曲やアーティストへのこだわりだけじゃなく、ジャケットのアートワークやビデオ、プロモーションの方法まで、全てに等しく気が配られてる感じだし。僕の地元スウェーデンのアーティストは、音源やミックスの良さだけにフォーカスしていて、他のことはあまり気にしてないような気がする。なので、ビデオも、プロモーションも、アートワークも正直言ってあまり良いとは思わないし、曲の内容と合っていないことも多かったりする。でも、日本のアーティストの曲を聴くと、そういったもの全体がちゃんと調和されてて、その辺が素晴らしいと思うね。


■ これはシンガーとしてでも、作家としてでもいいのですが、将来的こういうことにチャレンジしたい、というものがあったら教えてください。

そうだなぁ、僕にとって音楽というのは「恵み」であると同時に、ある種の「呪縛」でもあるのかもしれないね。大好きな一方で、大嫌いというか…。一番大好きなものでありながら、うまくいかないと本当に気分が滅入ってしまう。ひょっとしたら、僕は自分に高い目標を課しすぎるところがあって、ちょっと音楽に入れ込み過ぎちゃってるところがあるのかもしれないね。自分自身に満足することは、決してないからなぁ。

作曲家としては、ただひたすらに良い曲を書き、良い曲を発表すること。それに挑戦していくことだけかな。同じような曲、同じようなジャンルの作曲に終始するのは出来るだけ避けたい。でも、アーティストとしては、全くそれとは逆。自分自身のサウンド、これまで築いてきたアーティストとしてのカラーを大切にしながら、常に基本に立ち返り、流行を追いかけることなく、自分自身にとって良い曲を書いていこうと思ってるよ。

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■ 日本のシンガーと、シンガーとしてのご自身を比べたとき、何が一番違いますか?

日本のシンガーは、スキルを重視して完璧なパフォーマンスにすることや、難しい歌を歌いこなすといった、欧米のシンガーがこだわっていることにあまり興味がないのかなと感じることがあるね。でも、その代わり、さまざまな感情を表現したり、感動や生き生きとした躍動感を伝えることにフォーカスしているような気がする。そういった点で欧米のシンガーとはこだわっているところが違うのかもしれないね。


■ ということは、欧米では、唄のピッチが正確じゃないと、「うわ~ダメ」ということになっちゃうんでしょうか?日本だと、場合によってはピッチの外れたものでパフォーマンスであっても、それが味になっているなら良しとすることもあるのですが、欧米のレコーディングの現場においては、やはり正確さや高い技術というものが重視されるのでしょうか。あなたたちにとっての、「唄がうまい」の定義を教えてくれませんか?

いや、そんなことはないよ。僕自身、「このテイクが良い」と思った時は、どれだけピッチが外れてたり、唄い方が雑になってたりしても、修正せずにそのままマスターにすることもあるからね。「いいね!」と思えること、それから唄にメッセージがこもっていること、それに、曲の展開にマッチした感情が表せていること、それが何よりも大切なんじゃないかな。でも、と言いながら、最近のスウェーデンでは、ボーカル・データを編集・修正して、完璧なピッチに仕上げることが多くなってきてるかもしれない。今はいろんな技術のおかげで、そういった作業が難なく出来るようになってきたらかね。


■ 唄に完璧を求めすぎると、唄の感情的な面に影響してしまうと。

まさにそうだね。


■ すると、Andreasさん自身は、多少理屈では合わないものがあっても、唄の感情的な部分のほうをとりたいわけですね。

そうだね。でも、やってる曲のジャンルによっても違うかな。ダンスやエレクトロ系の曲であれば、正確なボーカル・ピッチも、ある意味で重要な一要素と言えるかもしれない。でも、オーガニックなピアノ・バラードであれば、感情のこもったボーカルを修正するのは自殺行為と言ってもいいんじゃないかな。


■ 日本の作曲家と一緒に曲を書いてみて、作曲法の違い、音楽に向ける気持ちの部分などで違いは感じましたか?

日本の音楽は欧米の音楽に比べて、何につけても「より多くの要素」が必要とされてる感じがするね。曲の尺は長く、構成されるパートも多い。メロディ・ラインのバリエーションも多いし、音符の動きも激しい。あと、ジャンルもいろんなバリエーションが存在しているよね。実際、このバリエーションの多さのせいで、欧米の作家の間では「日本を目指して書けば何でも売れる、だから何でも持っていけ」と、ある種のスローガンみたいに叫ばれてたりもする。でも、僕自身、実際に日本で仕事してみて思ったのは、それが大きな勘違いだということ。日本の音楽はとても繊細で、しかも流行にもとても敏感。だから、欧米の作家が日本で作品を採用してもらうのは、そんなに簡単なことじゃないと思う。ただ、それにしてもトレンドが変化していくのは早いよね(笑)。そのスピードは他の国よりもずっと早いし、あるアーティストの新作が、前の作品とは全く違う方向性になっていたりすることもたくさんあるからね。


■ すると特にジャンルの面で、日本の作曲家のアプローチに大きな違いを感じたということですね。では、スウェーデン人アーティストに向けて作曲をする時は、常にそのアーティストがどんなジャンルに属してるのかを意識するということですか?

そうだね。


■ ということは、例えば Taio Cruz のようなクラブ系のジャンルのアーティストであれば、オーガニックなギター・ポップは決してやらないと。

その通り。仮にあったとしても、アルバムの一番最後の曲かな(笑)。


■ Avril Lavigneで例えるなら、ロックはやるけど、エレクトロ系の曲は絶対にやらないわけですね。

うん。まぁ、新しい表現を求めて作曲家を総入れ替えするなら有り得る話だとは思うけどね。もちろんその場合、方向転換はスムーズにやらなければいけないけど。


■ 曲のジャンルがそのアーティストのイメージに大きく関わってるということでしょうか。

まさにそういうこと。

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■ 作曲のテクニック的な話ですが、バックコーラスのハーモニーはどんな風に作っているんですか?あなたの曲には、いつも緻密なハーモニー・ワークを感じるのですが、コーラスのハモを積んでいく時は、直観的にやっているんですか。それとも、理論に基づいたり、キーボードで弾いたりしながらやってますか?

きわめて自然に出てくるね。


■ 理論ではないと。

うん。4歳からピアノを弾いてるから、その影響もあるかな。音楽はずっと勉強してきたし、音楽理論も得意ではある。だから、もし論理的にコーラスのハーモニーを作ろうと思えば簡単に作れると思うんだけど、実はそのやり方じゃ、あまりいいものが出来ない気がするんだ。だから、「これだ!」と思ったら流れにまかせ、即興で広げていくようにしてる。作曲は、偶然から生まれるもののバランスが大切だからね。


■ 論理的には合っていなくてもそのままにする、ということですが、もし聴感上おかしいな、と思ったらどうします?唄い直したりするのですか?

締め切りのあるような場合は、とりあえずそのままにして、あとからソフトで修正するかな(笑)。それが一番いい方法だから。たまに理論的に片付けてしまうこともあるのですが、なるべくそれはしないようにしてるね。


■ 自分の曲のようにプレッシャーの無い状況ならどうですか?

いえ、その場合はかならず自然なやり方で作ってくね。


■ いいな、と思うところまでラインを探すわけですね。

そう。アルバムのバラード曲はすべて、ひらめくまで何度も通しで歌ってみてから、その場で出てきたものを都度チェックしながら、少しずつ調整していってるよ。


■ 曲のラフの段階からプロダクション全体を完成させるまで、大体どれくらいかかりますか?

リリースが決まっているものであれば、大体1~2週間かな。ただ、それだけの時間をかけるのは、自分で発表する曲か、あるいは、既にリリースが成約している曲の場合。実際、デモ曲の3分の2は、2日くらいで唄入れまで完成するね。


■ 好きなプラグインの名前を挙げてもらえますか?

あまりたくさんはないけど、Silenceに、ストリングなら Eastwest かな。ただちょっとシンセ的な雰囲気が強すぎるので使い方が難しいけど。あと、Ivory というグランドピアノのプラグインはとてもいい音だね。ただ、ビートに関しては、全て手打ちで作ってるよ。


■ ビート制作では何かのループ系ソフトを使っているんですか?

いや、ビート制作には特定のループ系プラグインは使ってなくて、LOGIC 上で生ドラムを編集するか、打ちこみ系であれば完全手打ちでやってるよ。


■ midiでコントロールしてるんですか?

いえ、古風なタイプなんで、全部ファイルをオーディオ・チャンネルに落として手作業でやってるね。


■ なるほど、サンプルじゃなくて全てオーディオファイルで作ってるんですね。ループ系のプラグインか、ソフトウェア・サンプラーを使ってるんだと思ってました。

Logicはドラムのプログラミングをするのにはすごくいいよね。色々いいサンプルもたくさんあるし。でも、正直あまり詳しくないだよね。たぶん自分がやってることを、もっとスマートに速く終わらせる方法はあるんだろうけど…(笑)。


■ 昔ながらのやり方のほうがいいんですね。

うん。でも、ある特定のサウンドを探すために、幾つかのプラグインをアップグレードすることはあるよ。あと、昔に使ったことがあるプラグインはキチンとメンテナンスしてるかな。


■ 好きなマイクは何ですか?

NEUMANN と PLM49 かな。


■ ヴォーカル・コンプやプリアンプは使ってますか?

プリアンプについては、愛憎半ばするってところかな(笑)。というのも、僕が使ってるのはナッシュヴィルでハンドメイドで作られた Dacking という70年代のビンテージもの。愛している理由は、本当に素晴らしいこと。ただ、憎んでいる理由は、使うのが本当にやっかいだから。


■ ヴィンテージ機材なんですね。

うん、とてもいいディストーション効果が得られるよ。ダイナミズムも生まれるし。コンプレッションはついてないけど、LOGIC 上のプラグインを通してレコーディングしてやれば、本当にいいボーカルが録れるんだ。


■ 自分自身のヴォーカルを自分でレコーディングしてプロデュースする時、どういったことが一番大変ですか?Andreasさんは自分でトラック制作して、自分の声をレコーディングしながらエンジニアまでしてますよね。SINGERS GUILDにも同じようなチャレンジをしている人が多いので、皆興味ある質問だと思います。

変な答えだけど、どの作業も特に大変と感じたことはないかな。


■ ごく自然にやっているんですね。

はい。


■ 自分のヴォーカルをエンジニアリングしたり、ミキシングしているときは、客観的に見てますか?それとも、やはり自分の声として見てますか?

両方だね。僕は自分のこととなると、つい批判的になりがちだから、自分が気になって仕方がない手前で止めておくくらいが一番いいかな?と考えるようにしてるよ。


■ お時間ありがとうございました。

アーカイヴ